今回の演目は、お正月に高野山で行われます儀式に注目してみました。高野山では、年頭より様々な行事がおこなわれます。そのひとつに、修正会(しゅしょうえ)と呼ばれる行事があります。この行事の名称は、“正”月に“修”する儀式である事から“修正会”と呼ばれています。高野山は真言密教の大道場ですから、密教式(これを密立てと言います)で儀式を執りおこなうのが普通ですが、この儀式は高野山で一般の仏教式(これを顕立てと言います)で執りおこなわれる数少ない儀式の一つです。
仏教では、よく戒律の話が語られます。これらは戒と律と本来別々の物で、仏教教団での様々なルールをまとめたものが律であり、このルールに従い、自発的に“悪”から離れる精神を戒と言いました。僧侶たちは、このルールに従って生活をしたわけですが、人間誰しも罪を犯してしまうものです。仏教では黙って見過ごすのではなく、仲間に打ち明けて許しを乞いました。これを懺悔といいます。皆に罪を打ち明けることによって心の中のわだかまりから解放されたわけです。この懺悔の行為が、日本に伝わった頃には次第に性格が変わり、国家が国民を代表して罪過を懺悔し、その功徳によって天変地異や飢饉などから国家を救ってもらおうとする現世利益的な儀式へと変遷しました。
また、大晦日の夜に悪鬼を祓い、厄災を除いて新年を迎える宮中の年中行事である追儺(ついな)式や、牛玉宝印(ごおうほういん)など、様々な思想が包括され、福杖を突いて堂内を巡ったり、牛玉宝印を供養する場面があったりと、ある種異様な世界観をかもし出しています。
聲明としましては、梵音(ぼんのん)や錫杖(しゃくじょう)といった、普段あまり使用されない曲がふんだんに盛り込まれています。特に錫杖は、「三世の忘れ節」といった、口伝を要する唱法も用いられます。全体的にテンポも非常によく、途中大きな声を張り上げたりします。これらの部分は、東大寺のお水取りの聲明を思い起こさせます。
2008年 2月23日 大阪 いずみホール
2009年 2月21日 東京 オペラシティコンサートホール
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