去る12月8日、SAMGHAとして再出発後はじめての聲明公演を大阪のホームグラウンドのようにご協力を頂いております、いずみホールにて開催いたしました。たくさんの方々のご来場、誠にありがとうございました。
高野山の様々な儀式に用いられる聲明を舞台に再現しながら、皆様に聲明を身近に聞いていただこうと企画した「高野山の聲明‐法会具現絵巻‐」も、今回で三回目を迎えることとなりました。第一回は最も基本的な聲明、つまり「梵讃(梵語の聲明)」や「漢讃(漢語の聲明)」など、奈良時代に中国や朝鮮から輸入された聲明の重要な曲が、盛り沢山織り込まれた「大曼荼羅供」。第二回は時代が下って中世、つまり鎌倉・室町時代に、儀礼儀式を中心に構成された聲明から、より一般にわかりやすく内容が伝わりやすいよう変化した聲明である「講式」にスポットを当てた、「常楽会」をご紹介致しました。第三回となる本公演では、内容は理解できなくとも荘厳な雰囲気によって宗教的恍惚感を与えるだけのものではなく、民衆が内容のある仏教音楽を要求したことから生まれた、中世における聲明の大きな変化の一つ、「論議」の聲明にスポットを当てることにいたしました。
この「論議」は、難解な大乗仏教の教理やその実践の理論的理解を、問答という対話形式で深めてゆくことを目的として始められたものです。仏教を学ぶ僧侶達が、仏教教理を深めるために互いに問い答えあうといったものから、阿闍梨といういわば大学の教授にあたる僧侶が、受験者にあたる学問僧に次々質問を投げかけて答えさせるという、一種の難解な試験に相当するものまで、多種多様に存在しています。これが時代と共に一定の形式をもって行われるようになり、さらに音楽的要素も加わって、オペラのように朗々と演じられる儀式へと変化していきました。これらは中世に発達した平家琵琶に影響を与え、また庶民の間では盲僧琵琶という形で伝わるようになります。そして、またこの種の音楽は、経典に説かれている逸話や仏教的な物の考え方、またはその説話などを演劇的に展開するようになり、やがては猿楽・能楽へと発展していきます。南北朝時代、能楽界に現れた観阿弥、世阿弥という天才の出現によって、音楽と演劇の芸術的融合が果たされた「能」は、このような仏教音楽から直接影響を受けて生まれました。今回の公演で、聲明が寺院で唱えられるだけの一般には関わりのない単なる宗教音楽などではなく、様々な日本音楽を誕生させる下地となったものであることが、お判りいただけたと思います。
来年の2月12日には島根県・島根県民会館大ホール、また2月24日には東京・紀尾井ホールにて同じく高野山の聲明‐法会具現絵巻‐第三回・御論議公演を開催致します。少しでもたくさんの方々に聲明のすばらしさに触れていただければ幸いです。皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げます。
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